2023年に読んだ本は、全部で55冊。
前年+2冊。来年は、60冊を目指していい本に出合えたらいいなぁ~と思う。
今年読んだ本の中で良かった本をなかなか1番が選べなかったので、良い本の定義を2つに分けて5冊ずつあげることにする。
1つは、面白かった本。ストーリー展開や文体、読ませる本という部類。
もう1つは、頭に残る本。面白い本は意外と忘れてしまう傾向があるので、読み終わった後もなんだかんだと考える本という部類。
【面白かった本】
・『犯人に告ぐ3』(上)(下) 雫井脩介
・『残りものには、過去がある』 中江有里
・『オタクのたのしい創作論』 カレー沢薫
・『残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr』 福留しゅん
・『去年の冬、きみと別れ』 中村文則
【頭に残る本】
・『無人島のふたり ー120日以上生きなくちゃ日記』 山本文緒
・『浮遊霊ブラジル』 津村記久子
・『愛には時間がかかる』 植本一子
・『雲の向こう、約束の場所』 加納新太
・『朝が来るまでそばにいる』 彩瀬まる
【個別感想】面白かった本編
・『犯人に告ぐ3』(上)(下) 雫井脩介
まず、薦められ方が面白かった。実家に帰省した際に父から勧められ読んだ本なのだが…私:「そんなに面白いなら1巻から読みたいな~」父:「ダメだ。3から読め!読まないなら貸さない!」と、1巻2巻をそっちのけで3巻を押し付けられた。意味がわからん!と思って不満だったが、3巻を読んでその後1巻2巻を読んだら「あぁ…なるほど」と納得した。
結論からざっくり書くと、1・2巻の助走が相当長く、3巻だけが群を抜いて面白い本だった。
3巻を読んで面白い!と感じたら1・2巻が面白く感じるが、1巻から順を追って読むとちょっと確信に迫るまでがダラダラ長すぎてめげてたかもしれない。3巻を読んでわからなかった過去の部分を1・2巻で埋めるという方が意図が全部つながり「すっごい面白い!」と思う感じだった。
父の薦め方に納得がいったので、友人にも同じように「読むなら3巻から読んで!」と薦めている。
・『残りものには、過去がある』 中江有里
この作者のことをテレビのコメンテーターだと思い込んでいた。しかし、最初のとっかかりはこの本だったけれど、そのあと読んだ『結婚写真』や『水の月』など他の作品を読むと非常に優れた物語の書き手だということがわかる。心地よいテンポで進むストーリーと、人の多面的な見方と、最後に意外と悪くな組み合わせと思わせてくれるところで落とす「巧い!」とあっという間に読んでしまう。ストーリーテリングの勝利だなという話。
正直数日したら「こんな話もあったよね」という風になってしまうのだろうけど、ストーリーの組み立てとドライブしていく感覚が「面白かった!」という読後感を残してくれる。偽装結婚の話なのに、割と周囲と本人たちも幸せそうなのが不思議な感じだった。ベタベタもドロドロもそんなにないので非常に読みやすかった。
・『オタクのたのしい創作論』 カレー沢薫
自分のオタク度が試される1冊。このエッセイに深く頷き、げらげら笑える人は、完全にオタクである。
オタクによるオタクの為のオタクならではの悩みと、その解決(?)落としどころを授けてくれる1冊。同人じゃなくても十分通じる。オタクの代名詞の漫画やアニメでなくてもカメラでも写真でも他のジャンルでも何かにハマっている人には、非常に耳の痛い。そしてゲラゲラ笑うが笑いながら「私も全然救いがないじゃん!?」と思う1冊。最近のオタク用語がわからなくなっていたので非常に勉強になった。
ちなみに非オタである妹にこの本の説明をしてみたら「何その意味の分からない悩み!」とドン引かれた。
私は自分にオタク要素があることをかなり前から自覚しており、SNSが発展する前に「このままここにいると傷つく可能性が高い!」と察してオタク界隈から距離を取った旧オタクなので、まだ笑いで納めることができるが…渦中にいる人はかなりシンドイなと思う。SNSでつながることは、純粋だった何かを変容させるのに十分な強烈な刺激だと改めて思い知る。創作がパッキリへし折られる可能性の高さは格段に上がっているが、辞めても地獄続けても地獄という…ジャンルが違えど分かり味しかない話に深く頷き、作者の非常に巧みな笑いに消化してく手腕に「ありがとう!」と感謝しかない。
・『残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr』 福留しゅん
数あるなろう系の悪役令嬢ストーリーを読んだけど、この人の話は別のも読んでみたい!と思わせる力がある1冊。なろう系の本は作者追いが出来ない傾向が私の中にはあり、この話は面白かったが次回作のこの話は別にそこまで…という作者が多い中で『福留しゅん』の名前をみたら全部読む!と決めた。実は出会いは漫画なのだが、漫画を読んで面白かったので単行本を買って文章で読んだら文章の方が面白かった!という2回目でも面白いという稀有な作家さんでもある。
転生もので悪役令嬢となると、みんな可愛くて我慢がきいて逆境に立ち向かう女性でハッピーエンドを目指すものが多い中、この主人公は普通に悪役を否定せず、ありとあらゆる汚い手を使いヒロインを陥れてやろうという、悪役令嬢系の中でも悪役をそのまま貫く珍しい設定になっている。そのうえ、24時間で現状をひっくり返すというエッセンスも加わり息をも付かぬ勢いで読了してしまう。『処刑エンドからだけど何とか楽しんでやるー』も面白い。
・『去年の冬、きみと別れ』 中村文則
極上の鳥肌もの。巧すぎて圧巻の1冊。
本自体が非常に薄く、すぐ読めてしまうが恐ろしいほど緻密で無駄なない為に「これは一体何の話?」なのか意味がわからなかった。殺人を犯した犯人の過去を追っていく話かと思いきや…読み進めていく内にどんどん変容して最後どんでん返し。こんなすごいメタ構造になってるんだっ!て驚き。
ストーリーが完璧に作り込まれ、あまりに無駄がないので感想が全てネタバレになる。書きずらいったらありゃしない!
巧すぎて読み終わると口から魂が出ます…(嘘)
【個別感想】頭に残る本
・『無人島のふたり ー120日以上生きなくちゃ日記』 山本文緒
遺作。大好きな山本文緒の最後の本。結末はもう痛いほどわかり切っているのにゆっくり読めなかった。ものすごい勢いで読んでしまう。
何をどうってうまく説明できないが、最後になるだろう面会でお互いの手を握り合うところで、感情が本能が揺らされる。
痛いとか、辛いとか、悲しいとか、死にたくないとか、そういう言葉が極端に少なく、理性を相当働かせて書かれている。常にこちら側を気づかって、読みやすいように書かれている日記だった。思うところは沢山あったんだろうなと、書かれていない部分を想像して涙が出た。そこに近づけない自分と作者の距離を感じて読み手としての欲を恥じると同時にすごく寂しくなった。
死期を感じていないと書かれていたが、死期はちゃんと感じていたんだなと最後にプツリと切れる文章で察した。
「書けたら書きます。また明日」という最後の文に、この人は最後まで作家でありたい、最後まで明日を信じたいという希望がみてとれて涙が止まらなくなった。
私もあなたの文章をもっともっと読みたかった。あなたの新刊を、物語にもっともっと触れていたかった。もっとあなたが何を感じて、みていたのかを知りたかった。もう新しいものに、新しいあなたに会えないことがすごく悲しく寂しくなる。
・『浮遊霊ブラジル』 津村記久子
心の底から「わかる!」と共感する1冊。初めの節の『給水塔の亀』次節の『うどん屋のジェンダー、またはコルネさん』の短編では「うどん」がキーワードになっている。うどんくらいしか食べられない疲れた日もあるという叫びに、疲れて何も作りたくない虚無な日に冷凍うどんに納豆、雌株を突っ込み食べている私としては深く頷く。文節の流れにやられる。
その共感を現実にするように、コロナワクチン3回目を打ち少し精神と身体ダメージを受けながら都庁から新宿駅まで歩いている途中、はなまるうどんでうどんを食べる。この本の内容を深く咀嚼しまた再び頷くということがあった。
面白い本と影響を与える本は違うなと思った。影響を残す本は、精神や身体に何かを残し行動を変えさせる力がある。ストーリー的に?と思うところもあるにはあるが、こういう事が本を読むうえでの醍醐味の1つだと思う。
『うどん陣営の受難』という新刊も出ているので、これから読むのが楽しみだったりする。
個人的に会社はお金を稼ぐところなので会社のせいで生じたストレスを発散させるためにお金を使うという行為が許せない、っていうことに気づいた1冊でもある。
・『愛には時間がかかる』 植本一子
正直に書くと、非常にむかむかする1冊。むかむかするから頭に残るという、ポジティブじゃなくてネガティブな残り方だけど、こういった体験も珍しい。
写真家のエッセイなのだが…ものの見事に写真は関係がなく恋人依存に悩む作者がトラウマカウンセリングを受けることにより依存から自立していく過程?を追っていく1冊。
私とは真逆のベクトルで生きている作家なので、読めば読むほど「はぁ?」と反発を覚える部分が多数ある。人のことなのでとやかく言うのはご法度とわかっているが、夫と死別して1年以内に新しい恋人が出来て依存していくこととか、子供のことはほとんど書かれず進んでいく内容とかちょっとどうかと思う。
ただ、カウンセリング自体を説明している本って結構珍しく、しかも回復の過程を細かくわかりやすく書かれていてトラウマカウンセリングに非常に興味が出てくる内容だった。私も大なり小なり家族関係で傷ついているし、自分の中のゆがんだものに決着をつけたいな、折り合いをつけたいなという気持ちがどこかにある。
写真家で写真のことを語らない本に出合うのも珍しく、カウンセリングのことを知れたのも発見で、反発はあれど新しいものが知られて頭に残る本ではあった。
・『雲の向こう、約束の場所』 加納新太
新海誠のアニメを加納新太が書き直している1冊。すごい!と感じた。原作を壊さず、雰囲気を生かしてアニメを文章に落とし込む巧さに感心しきり。ドライな印象を文面から受けるけれど、この人は相当気を使いながら原作のことを思って大切に書かれているのが伝わる。新海誠本人が書いている小説(ほかの作品は本人が書いているものもある)より全然加納新太の文章の方が新海誠っぽい!と思う。ある意味、私たち観客が求めている作品に近いと感じる。アニメでみているからっていう補足はあるが違和感なく読めてしまう。この人の文章を通してさらに新海作品が深まるのを感じた。
前半とても美しいで出してストーリーを全部知っているのに夢中になって読んだ。電車を降り損ねるぐらいには集中したし、中学生の心情をよくとらえているので夏に読む青春小説としてとても良い!と感じた(夏に読んだ)。映画の内容とは別に続きの話があり、どんでん返しが待っている。人としての自立の話にもなっていて、胸をぐっとつかまれる。うわーってもどかしさを感じる一筋縄ではいかない話になっていたのもすごく悶絶して心に残る。
・『朝が来るまでそばにいる』 彩瀬まる
この本はホラーなのか?と思いながら読んだ。お化けというか、ぐちゃぐじゃな黒いものが主人公なり相手なりに降りかかり変容していく内容の短編小説。面白いなと思う章もあったし、よくわからないなともう章もあった。ただ、内面の繊細な描写に閃くものがあり、気持ち悪すぎないギリギリの線を攻めえているなと思う。
喪失に寄り添う力がある。癒されるとは違う。喪失の形が変容していくことを淡々と観察して、変わること、変わったことを書いている。信じる・信じないにかかわらず「想像を超えたもの」の存在を常に感じる内容になっている。生々しい表現になるのは「生」を巧く表したいからだと感じる。なんとなく小谷元彦の作品群に近い感覚を思い起させる。自分でも忘れかけている必要な部分の言葉が含まれていて、自分の不足分に気づいてハッとさせられる。
解説と同様に、特に『明滅』の章では、私はだからあなたの名前を呼ぶのだと、絶対にこの世のどんなものにも侵させないんだと、自分の心情とぴったり一致する言葉があり、今年一番心に響いた一節だった。
すごい吸引力の作家さんと出会ったなと思う。『やがて海へと届く』『眠れない夜は体を脱いで』『暗い夜、星を数えて』『草原のサーカス』と今年は彩瀬まるの本を立て続けに読んだ。まだ全部読んでいないけれど、来年も引き続き彩瀬まるを追っていくと思う。