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安井仲治展へ行く

 
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 安井仲治展へ行ってきた。
 東京駅の建物内にある会場は、非常に行きやすく、東京駅という便利な立地も相まって色々な用事とセットにできるのでお得感がある。
 今回は行ってみたいシンガポールラクサのお店があったのでセットで楽しんできた。
 
 同じ姓を持つ写真家だが、私の一族とは全く関係がない。
 しかし、なんだかんだと昔からこの写真家にはとてもご縁があり、安井仲治『写真家四十八宜』(しゃしんをうつすひとよんじゅうはちよろし)を越える写真の参考書はないんじゃないか?と思っている。
 せっかくなので再び転記しておこうと思う。

 私はマックス・エルンストの作品もすごく好きなので、彼がエルンストに影響を受けていると知ってすごく驚いた。
 特に晩年、亡くなる前の『月』は、エルンストの『石化する森』などの『森』シリーズを彷彿とさせる。
 エルンストを特集している雑誌がガラスケースにあったり、シュルレアリスムに興味を示して試行錯誤している写真をみて、この人は写真だけでモノをみていないなと、もっと広いものをみようとしていると感じた。
 ちょっと重かったけど図録を購入した。これから読むのが楽しみ。新しい発見がたくさんあるはず。
 

安井仲治『写真家四十八宜』
(しゃしんをうつすひとよんじゅうはちよろし)

い  いつそスランプは大いなるがよろし

ろ  ろくでもないもの感心せぬがよろし

は  ハツと感じたら写すがよろし

に  ニツコリ微笑む自信はよろし

ほ  ほんとに自分を生かすがよろし

へ  下手な上手、上手な下手、どちらがよろし

と  撮れぬものは撮らぬがよろし

ち  チクリと痛い批評はよろし

り  理窟倒れも時にはよろし

ぬ  塗つた薬は銀乳剤、時節柄無駄せぬがよろし

る  類を以つて集ると雖も類作はせぬがよろし

わ  判るまで勉強するがよろし

か  カメラ自慢はせぬがよろし

よ  夜るも写るフイルムはよろし

た  誰も出来る事せぬがよろし

れ  例会は真剣にやるがよろし

そ  ソツと控ゑ目、内容ある作品よろし

つ  常にカメラと離れぬがよろし

ね  熱心、粘り、は最もよろし

な  夏の暗室出た時よろし

ら  ラクに出来てもいゝものはよろし

む  無理にやつてもいゝものはよろし

う  写るのはあたりまへと心得るがよろし

ゐ  井の中の蛙、自惚れぬがよろし

の  のぼせた写真家冷すがよろし

を  女の写真家もつと増えてよろし

く  首にかけたカメラ伊達じやないと知るがよろし

や  やめたい人はやめるがよろし

ま  まるで下手でも根気ある人よろし

け  けつして油断せぬがよろし

ふ  フイルムの供給円滑なるがよろし

こ  斯(こ)の道ばかりと思い込むのはよろし

え  英気養ふ日曜よろし

て  敵も適度にあるがよろし

あ  アマチユアーとて甘やかさぬがよろし

さ  醒めたる人々振ひ立つがよろし

き  嫌ひな作品学んでよろし

ゆ  夢をもつ作家大いによろし

め  眼の肥ゑた人多い程よろし

み  水あらひは叮嚀にするがよろし

し  失敗位は恐れぬがよろし

ゑ  縁あるモデル手荒にせぬがよろし

ひ  ヒカリの画集は売行よろし

も  もう少しで推薦、残念なのもよろし

せ  セメテたまにはホメられてよろし

す  すぐに天狗にならぬがよろし

京  きようの写真よりも明日の写真よろし

 










# by miyuki-jun | 2024-03-10 18:45 | 写真展

2024年2月の体験

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 前からちょっとやってみたかった切子体験に行ってきた。
 思いのほか腕に力が入り、縦・横・斜めと線を入れるのに後半疲れちゃったけれど面白い体験だった。
 グラスを決めて、入れてみたい模様を油性マーカーで描いていってという過程なのだが実際には思うように削ることができず、なかなかの結果になった。
 思うように削れないので、削りながら思いっきりマーカーと違う箇所を削るという初心者にやりがちなことをやり、ものの見事に左右非対称を作り出した。
 (写真ではあんまり曲がっていないように見えるが、大きく逸脱している…)
 でも、グラスの形がお気に入りのせいか?意外と毎日使っている。
 割と良い!
 もう一回!という感じではないんだけど、人はこうやって切子や陶芸にハマり出してグラスが増えたりお皿が増える現象をみるんだろうなぁ~と思った。
 やっぱ何かを自分の手で作るって良いんだよなぁ~。
 デジタルに触手があんまり動かないのは、そういうことなんだよねぇ…と改めて思ったり。
 
 
 今年は暖かいからか?思いのほか体調が良い。
 繁忙ピークが来ているのだが、去年より今年の方が残業が圧倒的に多く忙しいにもかかわらず何とかなっている。
 去年の体調はかなり悪く、やれ扁桃腺炎だ!口内炎多発だ!と忙しさのせいにしていた。
 けれど、振り返ってみるとあの辺りから病状悪化してたんじゃない?と答え合わせをする日々。
 本当何が起こるかわからんなぁ…と自身の老いに関する未来を憂う日がくるとは…ため息出ちゃうわ。







# by miyuki-jun | 2024-02-23 19:25 | 私生活

2024年1月からのインク

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 2024年スタートから気の滅入ることが多く、なにやら不穏な雰囲気が続く。
 本来なら海外への葉書を書いて載せるところだけれど、諸事情あり葉書を書くことを控えることになった。

 毎年年始に新しいインクをおろす。
 今年は昨年旅行した広島・多山文具オリジナル『カラートラベラー・タヤマングリーン』
 多山文具のキャラ・タヤマンがあしらわれた可愛いパッケージのインクだ。
 タヤマンが描かれているのは、このタヤマングリーンだけ。
 日記用のインクは緑と決めているので、見つけたときはピッタリだ!と興奮した。
 やや明るめの緑が書いてて愉しいインクだ。

 びっくりなことに国家試験に合格していた。
 実技が結構難しくて時間内に終わらせるのがやっとだったので、不合格と思い込んでいた。
 ネットの合格発表をみて飛び上がる。
 久々に「嬉しい!」ってテンション爆上がりだった。
 爆上がりな結果、報奨金以上の散財をすることになるのだが、まぁ、そこはやむなし。









 


# by miyuki-jun | 2024-01-08 11:36 | 私生活

2023年振り返り、ラジオと共に

 2020年以降、コロナもあり、振り返ることをしなかったので久々に振り返ってみたり。

 2020年~2023年で聴いていたラジオ番組が次々と終わっちゃったので聴いているラジオタイトルは結構減ってしまった。
 しかし、今私のラジオLIFEはちょっと面白いことがあり盛り上がっている。
 なんと、ラジオ友達が出来た。
 正確にいうと、私がラジオを聴いていると話していた友達がラジオを聴きはじめ、意気投合した。

 夏に友達と会った時に
 「最近日曜日にラジオを聴いてるんだ~」
 「なになに?日天?」
 「なっ!なんでわかるの?」
 「いや、日曜日にラジオっていったら日曜天国しかないじゃん!」

 そんな会話から安住紳一郎の日曜天国の話題で盛り上がる。
 同級生といえど、卒業から早うん十年となっているためお互いの近況や悩みを話はするが共通する話題はあまりない。そこにラジオという共通言語がぶっこまれ、一気に話題がラジオ一色となる。
 来年は、玄葉蔵に応募してみようよ!とか、お土産は見つけた円山動物園の塩ラーメンだ!ヤングビーナスだ!とラジオを聴いていない人にはまるで分らん単語のオンパレードで会話が進む。
 しかも友達、ハマり過ぎて過去回2007年からをさかのぼって全部聴き始めており、私以上に色々日天に詳しくなり話題を提供してくれる。
 合唱コンクールの一番最初、上野動物園のパンダの話、新宿のボーリング話、いかだレース、醤油大使、穴掘り大会などなど、話が尽きない。
 お返しに私もエリック・サウスに連れて行きビリアニの美味しさを伝え、日天とアトロクでクロスオーバーしている楠葉絵美さんのオタク情報や交通情報の白井京子さんの話題を返し枠を広げる。
 

 SNSをやっていない為、リアルでラジオ感想を言い合うとか今までなかったので非常に新鮮。
 正直、私のメインはアトロクとJANKなので日天の過去回を入れるとパンク寸前なのだが…なんだかんだと段々とラジオ時間が長くなりつつある今日この頃。
 来年は今までと違った方向でラジオ熱が再発しそうな予感がするのであった。




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 今年も年末の最後に上原ひろみのライブに行ってきた。
 今年は『Blue Giant』があったので、有楽町駅から東京国際フォーラムに行くのが大変なぐらいの大入りで会場にはお客さんがわんさかいて驚いた。
 本当なら目標のライブ遠征をしたかったんだけれど、ツアー開始時期が手術予定日と重なってしまった為に遠征が難しく、いつも通り都内で参加となった。
 本人も「CD買って頂いて予習してきた方には申し訳ないのですが…なんの役にも立ちません」というぐらいCDとは全く別物の生の音楽を浴びる。
 色々あるけど、このために働いているって言い切れるし、毎年行ける自分でありたい。
 毎年聴きに行って思うけれど、今年も本当に聴きに行けて良かった。本当に良かった!と心の底から思う。
 来年も健康に気をつけて、しっかりやっていこう!と元気をもらう。










# by miyuki-jun | 2023-12-31 18:01 | 私生活

2023年読んだ本について

 2023年に読んだ本は、全部で55冊。
 前年+2冊。来年は、60冊を目指していい本に出合えたらいいなぁ~と思う。

 今年読んだ本の中で良かった本をなかなか1番が選べなかったので、良い本の定義を2つに分けて5冊ずつあげることにする。
 1つは、面白かった本。ストーリー展開や文体、読ませる本という部類。
 もう1つは、頭に残る本。面白い本は意外と忘れてしまう傾向があるので、読み終わった後もなんだかんだと考える本という部類。

 【面白かった本】
 ・『犯人に告ぐ3』(上)(下) 雫井脩介
 ・『残りものには、過去がある』 中江有里
 ・『オタクのたのしい創作論』 カレー沢薫
 ・『残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr』 福留しゅん
 ・『去年の冬、きみと別れ』 中村文則

 【頭に残る本】
 ・『無人島のふたり ー120日以上生きなくちゃ日記』 山本文緒
 ・『浮遊霊ブラジル』 津村記久子
 ・『愛には時間がかかる』 植本一子
 ・『雲の向こう、約束の場所』 加納新太
 ・『朝が来るまでそばにいる』 彩瀬まる


 【個別感想】面白かった本編
 ・『犯人に告ぐ3』(上)(下) 雫井脩介
 まず、薦められ方が面白かった。実家に帰省した際に父から勧められ読んだ本なのだが…私:「そんなに面白いなら1巻から読みたいな~」父:「ダメだ。3から読め!読まないなら貸さない!」と、1巻2巻をそっちのけで3巻を押し付けられた。意味がわからん!と思って不満だったが、3巻を読んでその後1巻2巻を読んだら「あぁ…なるほど」と納得した。
 結論からざっくり書くと、1・2巻の助走が相当長く、3巻だけが群を抜いて面白い本だった。
 3巻を読んで面白い!と感じたら1・2巻が面白く感じるが、1巻から順を追って読むとちょっと確信に迫るまでがダラダラ長すぎてめげてたかもしれない。3巻を読んでわからなかった過去の部分を1・2巻で埋めるという方が意図が全部つながり「すっごい面白い!」と思う感じだった。
 父の薦め方に納得がいったので、友人にも同じように「読むなら3巻から読んで!」と薦めている。



 ・『残りものには、過去がある』 中江有里
 この作者のことをテレビのコメンテーターだと思い込んでいた。しかし、最初のとっかかりはこの本だったけれど、そのあと読んだ『結婚写真』や『水の月』など他の作品を読むと非常に優れた物語の書き手だということがわかる。心地よいテンポで進むストーリーと、人の多面的な見方と、最後に意外と悪くな組み合わせと思わせてくれるところで落とす「巧い!」とあっという間に読んでしまう。ストーリーテリングの勝利だなという話。
 正直数日したら「こんな話もあったよね」という風になってしまうのだろうけど、ストーリーの組み立てとドライブしていく感覚が「面白かった!」という読後感を残してくれる。偽装結婚の話なのに、割と周囲と本人たちも幸せそうなのが不思議な感じだった。ベタベタもドロドロもそんなにないので非常に読みやすかった。



 ・『オタクのたのしい創作論』 カレー沢薫
 自分のオタク度が試される1冊。このエッセイに深く頷き、げらげら笑える人は、完全にオタクである。
 オタクによるオタクの為のオタクならではの悩みと、その解決(?)落としどころを授けてくれる1冊。同人じゃなくても十分通じる。オタクの代名詞の漫画やアニメでなくてもカメラでも写真でも他のジャンルでも何かにハマっている人には、非常に耳の痛い。そしてゲラゲラ笑うが笑いながら「私も全然救いがないじゃん!?」と思う1冊。最近のオタク用語がわからなくなっていたので非常に勉強になった。
 ちなみに非オタである妹にこの本の説明をしてみたら「何その意味の分からない悩み!」とドン引かれた。
 私は自分にオタク要素があることをかなり前から自覚しており、SNSが発展する前に「このままここにいると傷つく可能性が高い!」と察してオタク界隈から距離を取った旧オタクなので、まだ笑いで納めることができるが…渦中にいる人はかなりシンドイなと思う。SNSでつながることは、純粋だった何かを変容させるのに十分な強烈な刺激だと改めて思い知る。創作がパッキリへし折られる可能性の高さは格段に上がっているが、辞めても地獄続けても地獄という…ジャンルが違えど分かり味しかない話に深く頷き、作者の非常に巧みな笑いに消化してく手腕に「ありがとう!」と感謝しかない。



 ・『残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr』 福留しゅん
 数あるなろう系の悪役令嬢ストーリーを読んだけど、この人の話は別のも読んでみたい!と思わせる力がある1冊。なろう系の本は作者追いが出来ない傾向が私の中にはあり、この話は面白かったが次回作のこの話は別にそこまで…という作者が多い中で『福留しゅん』の名前をみたら全部読む!と決めた。実は出会いは漫画なのだが、漫画を読んで面白かったので単行本を買って文章で読んだら文章の方が面白かった!という2回目でも面白いという稀有な作家さんでもある。
 転生もので悪役令嬢となると、みんな可愛くて我慢がきいて逆境に立ち向かう女性でハッピーエンドを目指すものが多い中、この主人公は普通に悪役を否定せず、ありとあらゆる汚い手を使いヒロインを陥れてやろうという、悪役令嬢系の中でも悪役をそのまま貫く珍しい設定になっている。そのうえ、24時間で現状をひっくり返すというエッセンスも加わり息をも付かぬ勢いで読了してしまう。『処刑エンドからだけど何とか楽しんでやるー』も面白い。



 ・『去年の冬、きみと別れ』 中村文則
 極上の鳥肌もの。巧すぎて圧巻の1冊。
 本自体が非常に薄く、すぐ読めてしまうが恐ろしいほど緻密で無駄なない為に「これは一体何の話?」なのか意味がわからなかった。殺人を犯した犯人の過去を追っていく話かと思いきや…読み進めていく内にどんどん変容して最後どんでん返し。こんなすごいメタ構造になってるんだっ!て驚き。
 ストーリーが完璧に作り込まれ、あまりに無駄がないので感想が全てネタバレになる。書きずらいったらありゃしない!
 巧すぎて読み終わると口から魂が出ます…(嘘)



 【個別感想】頭に残る本
 ・『無人島のふたり ー120日以上生きなくちゃ日記』 山本文緒
 遺作。大好きな山本文緒の最後の本。結末はもう痛いほどわかり切っているのにゆっくり読めなかった。ものすごい勢いで読んでしまう。
 何をどうってうまく説明できないが、最後になるだろう面会でお互いの手を握り合うところで、感情が本能が揺らされる。
 痛いとか、辛いとか、悲しいとか、死にたくないとか、そういう言葉が極端に少なく、理性を相当働かせて書かれている。常にこちら側を気づかって、読みやすいように書かれている日記だった。思うところは沢山あったんだろうなと、書かれていない部分を想像して涙が出た。そこに近づけない自分と作者の距離を感じて読み手としての欲を恥じると同時にすごく寂しくなった。
 死期を感じていないと書かれていたが、死期はちゃんと感じていたんだなと最後にプツリと切れる文章で察した。
 「書けたら書きます。また明日」という最後の文に、この人は最後まで作家でありたい、最後まで明日を信じたいという希望がみてとれて涙が止まらなくなった。
 私もあなたの文章をもっともっと読みたかった。あなたの新刊を、物語にもっともっと触れていたかった。もっとあなたが何を感じて、みていたのかを知りたかった。もう新しいものに、新しいあなたに会えないことがすごく悲しく寂しくなる。



 ・『浮遊霊ブラジル』 津村記久子
 心の底から「わかる!」と共感する1冊。初めの節の『給水塔の亀』次節の『うどん屋のジェンダー、またはコルネさん』の短編では「うどん」がキーワードになっている。うどんくらいしか食べられない疲れた日もあるという叫びに、疲れて何も作りたくない虚無な日に冷凍うどんに納豆、雌株を突っ込み食べている私としては深く頷く。文節の流れにやられる。
 その共感を現実にするように、コロナワクチン3回目を打ち少し精神と身体ダメージを受けながら都庁から新宿駅まで歩いている途中、はなまるうどんでうどんを食べる。この本の内容を深く咀嚼しまた再び頷くということがあった。
 面白い本と影響を与える本は違うなと思った。影響を残す本は、精神や身体に何かを残し行動を変えさせる力がある。ストーリー的に?と思うところもあるにはあるが、こういう事が本を読むうえでの醍醐味の1つだと思う。
 『うどん陣営の受難』という新刊も出ているので、これから読むのが楽しみだったりする。
 個人的に会社はお金を稼ぐところなので会社のせいで生じたストレスを発散させるためにお金を使うという行為が許せない、っていうことに気づいた1冊でもある。



 ・『愛には時間がかかる』 植本一子
 正直に書くと、非常にむかむかする1冊。むかむかするから頭に残るという、ポジティブじゃなくてネガティブな残り方だけど、こういった体験も珍しい。
 写真家のエッセイなのだが…ものの見事に写真は関係がなく恋人依存に悩む作者がトラウマカウンセリングを受けることにより依存から自立していく過程?を追っていく1冊。
 私とは真逆のベクトルで生きている作家なので、読めば読むほど「はぁ?」と反発を覚える部分が多数ある。人のことなのでとやかく言うのはご法度とわかっているが、夫と死別して1年以内に新しい恋人が出来て依存していくこととか、子供のことはほとんど書かれず進んでいく内容とかちょっとどうかと思う。
 ただ、カウンセリング自体を説明している本って結構珍しく、しかも回復の過程を細かくわかりやすく書かれていてトラウマカウンセリングに非常に興味が出てくる内容だった。私も大なり小なり家族関係で傷ついているし、自分の中のゆがんだものに決着をつけたいな、折り合いをつけたいなという気持ちがどこかにある。
 写真家で写真のことを語らない本に出合うのも珍しく、カウンセリングのことを知れたのも発見で、反発はあれど新しいものが知られて頭に残る本ではあった。



 ・『雲の向こう、約束の場所』 加納新太
 新海誠のアニメを加納新太が書き直している1冊。すごい!と感じた。原作を壊さず、雰囲気を生かしてアニメを文章に落とし込む巧さに感心しきり。ドライな印象を文面から受けるけれど、この人は相当気を使いながら原作のことを思って大切に書かれているのが伝わる。新海誠本人が書いている小説(ほかの作品は本人が書いているものもある)より全然加納新太の文章の方が新海誠っぽい!と思う。ある意味、私たち観客が求めている作品に近いと感じる。アニメでみているからっていう補足はあるが違和感なく読めてしまう。この人の文章を通してさらに新海作品が深まるのを感じた。
 前半とても美しいで出してストーリーを全部知っているのに夢中になって読んだ。電車を降り損ねるぐらいには集中したし、中学生の心情をよくとらえているので夏に読む青春小説としてとても良い!と感じた(夏に読んだ)。映画の内容とは別に続きの話があり、どんでん返しが待っている。人としての自立の話にもなっていて、胸をぐっとつかまれる。うわーってもどかしさを感じる一筋縄ではいかない話になっていたのもすごく悶絶して心に残る。



 ・『朝が来るまでそばにいる』 彩瀬まる
 この本はホラーなのか?と思いながら読んだ。お化けというか、ぐちゃぐじゃな黒いものが主人公なり相手なりに降りかかり変容していく内容の短編小説。面白いなと思う章もあったし、よくわからないなともう章もあった。ただ、内面の繊細な描写に閃くものがあり、気持ち悪すぎないギリギリの線を攻めえているなと思う。
 喪失に寄り添う力がある。癒されるとは違う。喪失の形が変容していくことを淡々と観察して、変わること、変わったことを書いている。信じる・信じないにかかわらず「想像を超えたもの」の存在を常に感じる内容になっている。生々しい表現になるのは「生」を巧く表したいからだと感じる。なんとなく小谷元彦の作品群に近い感覚を思い起させる。自分でも忘れかけている必要な部分の言葉が含まれていて、自分の不足分に気づいてハッとさせられる。
 解説と同様に、特に『明滅』の章では、私はだからあなたの名前を呼ぶのだと、絶対にこの世のどんなものにも侵させないんだと、自分の心情とぴったり一致する言葉があり、今年一番心に響いた一節だった。
 すごい吸引力の作家さんと出会ったなと思う。『やがて海へと届く』『眠れない夜は体を脱いで』『暗い夜、星を数えて』『草原のサーカス』と今年は彩瀬まるの本を立て続けに読んだ。まだ全部読んでいないけれど、来年も引き続き彩瀬まるを追っていくと思う。

 
 
 
 
 
 
 
 
 




# by miyuki-jun | 2023-12-30 17:43 |